COMMUNICATIONS
社交ダンスと土俵
考古学を専門とする陶芸家として、私の作品は、人間が"遺すもの"への関心から生まれています。人間の行動やしぐさや経験が、物質や環境のなかにどのように痕跡として現れるのか。特に興味があるのは、物質的痕跡をほとんど(あるいはまったく)残さない、社交ダンスのようなごく束の間の身体活動です。
では、こうした一瞬の動きをどのように記録すればよいのでしょう。私の調査の眼は、相撲の取り組みが行われる舞台である、土俵へと向かいました。試合や稽古に使われる土俵は、約45トンの土で造られ、その上に砂と塩がまかれます。これらの材料は、相撲というスポーツの視覚的な迫力を高めるだけでなく、各力士の動きを捉え、躍動感あふれる記録として残す役割も果たしています。このような「動作のアーカイブ」は、ダンスを物質的に記録する可能性についても、説得力あるモデルを提供してくれます。
私はダンスと土俵の関係を調べるために、英国芸術・人文リサーチカウンシル(AHRC)の国際研究助成を得て、2026年1月に日文研にやってきました。滞在期間中は、複数の土俵設営の現場を見学し、名横綱・白鵬をはじめとする力士たちや、土俵の設営と整備を担う熟練の職人である「呼出(よびだし)」の方たちと対話する機会を得ました。土俵の組み立ては、それ自体が一種のダンスのようなもので、呼出の足さばきと、木製の道具を使って土をリズミカルに繰り返し押し固める作業が、見事な調和を見せます。視覚的にも十分魅力的でしたが、とりわけ興味深かったのは、安定性と瞬発力を兼ね備えた一つの「面」が生まれるまでのプロセスでした。

左:第16回世界相撲大会白鵬杯での土俵設営(2026年2月、東京)(筆者撮影)
右:阿武松部屋の稽古場(大阪)(筆者撮影)
陶芸の場合、焼成前の粘土がこれほどの規模で構造材として使われることはめったにありません。一方、土俵の土は、適切に圧縮すれば、かなりの重量や激しい身体活動に耐えつつ、動作を記録できるほど十分に軟らかい状態を保つことがわかります。この二面性は即座に、ダンスフロアを連想させました。土は、指紋から足跡に至るまで、人間存在の一瞬の痕跡を捉えるものとして古くから知られていますが、土俵の面は、動きを受け止めると同時にリアルタイムで記録することを目的に設計されているのです。
土俵を築くために用いられる技術は、何世紀にもわたって改良を重ねられてきたものであり、体に染みついた知識に大きく依存しています。土俵と手仕事の関係について詳しいライターの山下めぐみさんに話を伺うと、土俵とは「生きた職人技」であると強調されました。土俵は大会ごとに絶えず作り直されるため、その真髄は物そのものというより、作り上げる行為にこそあると言うのです。こうした人間の技能や技術に対する着眼はきわめて重要です。ある力士は、動力式の圧縮機を使って作られた土俵はすぐにひび割れてしまうけれど、伝統的な手作業で補修すると安定した状態に持ち直すと語ってくれました。
力士たちは一様に、土俵にはある種の「生命」が宿っていると言います。冷たい地面に足を踏み入れたときの衝撃や、表面のわずかな凹凸に対する両足の感触などといった話からは、身体と物質の相互反応がうかがえます。土俵面は、動きを記録すると同時に、その動きを具体的に形づくっています。この点をさらに詳しく調べるため、私は所属大学の技術的支援を得て、2日間の相撲大会の前後で土俵の基本的な写真測量モデルを作成しました。その結果得られた画像からは、広範囲にわたって目に見える変化が確認されました(下の写真を参照)。

第16回白鵬杯 大会前の土俵(筆者撮影)

第16回白鵬杯 大会後の土俵(2日間開催)(筆者撮影)
各取り組みの合間には、呼出が土を掃いて整え、砂と塩を再配置してそれぞれの原型に戻します。こうした破壊と修復の繰り返しと激しい格闘が相まって、幾重にも層を成す面(動作のレイヤー)が形成されるのですが、これを写真だけで完全に記録することは至難の技です。わずかなへこみや摩擦痕といった微細な触覚的質感は、遠目にはほとんど見えないからです。こうした制約により、さらに実践的なアプローチが必要であるとわかりました。

粘土製ダンスフロアの実地検証(筆者撮影)
そのため、私は、日本六古窯の一つである信楽(滋賀県)に10日間滞在し、東京の荒川で採取された伝統的な土俵の土をじかに使って制作に取り組みました。土俵の設営で見られるのと同じ圧縮技法を使って、粘土によるダンスフロアの施工を試みたのです。完成後、実際にその上で踊ってみたところ、動作がいかにして支えられ、記録されるかを観察することができました。
この実地検証は、さらに一連の彫刻制作へと展開しました。内側の円が「天」を、周囲の四角形が「地」を表すというのが、土俵の象徴的構造です。そこから着想を得て、ダンスフロアと同様の圧縮技法を使い、中央の円をくり抜いた造形物を制作しました。概念的かつ物理的な空間が「天」に向かって開かれているイメージです。これらの制作は、素焼き粘土を圧縮するうえで構造上の限界を試すためでもありましたが、伝統的な圧縮技法によって驚くべき強度が得られることを証明してくれました。

土俵の土と圧縮技法を用いて制作した彫刻の数々(筆者撮影)
本研究を通じて、土俵は単なる相撲の舞台にとどまるものではないことが明らかになりました。身体的動作の痕跡を捉え、それに反応し、保存する物理的システムなのです。精神的伝統や物質的特性だけではなく、それを支える知識や慣行も重要な役割を果たしています。デジタル資料のみに頼るのではなく、じかに「土」に触れるような実践的アプローチによって、動作を「出来事」および「痕跡」として記録する仕組みにより深く迫ることができます。そして、それにより、現代においても考古学的な意味合いにおいても、ダンスの社会的・文化的な重要性を守り伝えるための新たな可能性が広がるのです。

土俵彫刻の内側面(部分)(筆者撮影)


