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RESEARCH

2019年度日文研海外シンポジウム「ポストコロニアル研究の遺産――翻訳不能なものを翻訳する」

磯前順一(教授)
2020年7月31日

 2020年2月13-15日の3日間にわたって、ニューヨークのコーネル・ファカルティクラブで、シンポジウム「ポストコロニアル研究の遺産――翻訳不能なものを翻訳する」を行った。この企画はタラル・アサド名誉教授(ニューヨーク市立大学大学院)の結婚60周年と日文研の創立30周年を祝う企画として、アサド教授の新作『世俗の翻訳―国民国家、近代的自我、計算的合理性』に想を得て、翻訳論の観点からポストコロニアル研究を総括する企画として準備を進めてきた。

タラル・アサド教授との共同セッション

タラル・アサド教授との共同セッション

 日文研・翰林大学校日本学研究所・コーネル大学の共同出資のもと、実務運営を松木裕美助教ら日文研海外研究交流室が担当し、磯前とアサドに加えて、合衆国からガヤトリ・スピヴァク(コロンビア大学)、ヘント・デ・ブリース(NYU)、酒井直樹(コーネル大学)、平野克弥(UCLA)、ドイツからマリオン・エガート(ルール大学ボッフム)、韓国から徐禎完(翰林大学校)の各教授・准教授が参加した。その中で、汪暉教授(清華大学)がウィルスによる入国規制のため、不参加になったのは残念であった。

 日文研からは、荒木浩副所長、松田利彦海外研究交流室長、安井眞奈美教授、楠綾子准教授、ゴウランガ機関研究員が、日文研が世話役を務める「国際日本研究」コンソーシアムからは友常勉教授(東京外国語大学)が参加した。

ヘント・デ・ヴリース教授、ガヤトリ・スピヴァク教授、マリオン・エガート教授、酒井直樹教授との質疑討論

ヘント・デ・ヴリース教授、ガヤトリ・スピヴァク教授、マリオン・エガート教授、酒井直樹教授との質疑討論

 テーマの翻訳論は、主体の形成過程のあり方として「翻訳不能なものの翻訳」という主題を読み解く試みとなった。今では古典となったテクスト、ベンヤミン「翻訳者の使命」、そしてデリダ「バベルの塔」を、参加者である酒井の『翻訳と主体性』およびアサドの『世俗の翻訳』とどのように繋ぎ合わせるのか、翻訳不能性と翻訳の必要性はいかなる関係のもとに捉えられるべきなのか、激烈な議論が交わされた。それは南アジアや東アジア出身の知識人が、西洋的な知の伝統の中に入り込みつつ、それを自己の主体化の問題としていかに読み替えていくかという、翻訳行為の実践を示して見せた3日間であった。そこに、「国際日本研究」コンソーシアムが文字どおり国際的に展開する秘鑰も隠されているように感じている。