RESEARCH
本草学のマニアックな交流をふたたび
本草学の共同研究がはじまる。日文研では、外から代表者を迎え、文理や学問分野、国境の枠を超えた共同研究をやっている。大阪大学総合学術博物館の伊藤謙先生(薬剤師・薬学博士)が、本草学の学際研究「東アジアのMultidisciplinary Scienceとしての本草学の再構成―実物検証を伴う文理融合研究の新展開―(Reconstruing Honzōgaku as an East Asian Multidisciplinary Science: New Developments in Empirical Research on the Fusion of Arts and Sciences)」を提案してくださり、今年度に始めることになったのだ。劉建輝教授から「磯田さん。コアメンバーになって本草学の共同研究会をやりませんか」とお声がけがきた時は、驚いたが、ちょっと、うれしかった。
徳川時代の本草学といえばマニアックの極みである。この世の森羅万象を持ち寄り、身分をこえ好奇心に満ちた知性が集まって、調べ語り合った。京都でも、本草学が明治以前のサイエンスの基盤になっていた。山本読書室などで、儒者・医者・画工・歌人から公家までが集まって、本草の会を楽しんだ。
今回の共同研究会も昔の本草学に似ている。例えば、医薬学の研究者と、薬の祖とされる“柑橘”の歴史的標本を化学的に分析する。その研究結果を論じあい、東アジア全体での柑橘類の歴史も考える。まさに、文理融合・分野横断の極みである。漢方薬はもとより鉱物も、本草学の研究対象だ。日文研には、宗田文庫という医学史文献のコレクションもある。メンバーは本当に多様で、製薬関係者も植物研究者も古生物研究者もいらっしゃる。
この日文研で始まる“近現代の本草学”のマニアックな交流からは、一体、何が生まれるのか、見当もつかない。いまから、そわそわしている。学問と学問をまぜて、無から有が生じるかもしれないワクワク感こそが日文研の真骨頂だ。伊藤謙先生をしっかりお手伝いして、大いに、やっていきたい、と思っている。