RESEARCH
小袖をめぐる絵とことば―「文化・情報の結節点としての図像」
江戸時代、人々はどのような小袖を着ていたのだろうか。伝存する小袖や浮世絵をながめれば、大柄で華やかな寛文小袖、贅を尽くした元禄小袖、一見地味に見えながら細やかな職人仕事が施された江戸小紋など、様々な時代の様相を知ることができる。また、小袖の注文用として、あるいは鑑賞用として作られた雛形本を読めば、当時好まれた意匠、色、技法を事細かに追うことが可能である。
日文研の「文化・情報の結節点としての図像」ユニット(研究代表者:山田奨治/広領域連携型基幹研究プロジェクト「異分野融合による「総合書物学」の構築」:主導機関国文学研究資料館)では、絵とことばを備えた書物が文化の交流・継承に果たした役割について、絵入百科事典研究や「近世期絵入百科事典データベース」の構築を進めながら検証を行っている。
その一つとして、小袖にまつわる絵とことばが記録された小袖雛形本に着目し、江戸時代中期に刊行された『正徳ひな形』(正徳3年/1713)の翻刻・注釈を行っている。本書は京都の書肆八文字屋が企画・出版を行ったもので、当時随一の人気を誇った西川祐信(1671-1750)が筆をとった。御所風・御屋敷風・町風・傾城風・遊女風・風呂屋風・若衆風・野郎風と、階層・職業ごとに区切って96の図案を挙げ、次に189種の紋と名称を並べた「紋尽」が続く。御所風では金糸を用いた縫や絞りなど贅沢な技法を尽くした雛形を、町風では友禅染・ぼかし染などの染を多用した雛形を、といった具合にそれぞれの階層に応じた小袖を提案している。人々が身に纏う小袖を描く雛形本はいわば時代を映す鏡であり、近世の社会構造・風俗・技術などを考える上で重要な資料群といえる。
ユニットの最終年度となる2021年には、『正徳ひな形』の翻刻・注釈にコラム・論文を加えた研究書を出版する予定である。なお、2020年度には絵入百科事典研究の成果として論文集『文化・情報の結節点としての図像:絵と言葉でひろがる近世・近代の文化圏』(石上・山田編著/晃洋書房)、単行本『江戸のことば絵事典―「訓蒙図彙」の世界』(石上著/KADOKAWA)を刊行した。ぜひご覧になっていただければと思う。