RESEARCH
2021年のブッダ、『方丈記』、そして〈無常〉研究の未来へ
2021年に共同研究「ソリッドな〈無常〉/フラジャイルな〈無常〉―古典の変相と未来観」を始動した。欧米、中東、東アジアなど、さまざまなエリアの研究者も参加する。無常観の国際比較もやってみたい、と考えていた頃、「東アジアの中の中世文学」という特集への寄稿依頼があり、「釈迦の出家と羅睺羅誕生――不干斎ハビアンと南伝仏教をめぐって」という論文を書いた(『日本文学』2021年6月号)。16世紀に、インドから東南アジアを通って日本にやってきたキリシタンの仏教受容をめぐって、2016年にタイのチェンマイで撮影したブッダ出家の壁画(写真①)も引いて考察している。その一部は、近刊の拙著『古典の中の地球儀』(NTT出版、2022年)にも展開した。
論文公刊の直前に、ロンドン大学SOASの佐藤=ロスベアグ・ナナ氏より、SOAS、南開大学、日文研連携のミニシンポ「SOAS~NKU–CFL~Nichibunken オンライン学術会議」の提案があり、上記と関連する発表を行った(2021年6月4日)。この会議での大きな収穫は、佐藤氏の発表を通じて、コロナ禍をめぐる「シンデミック」=病の複合という概念を認知したことだ。
それは〈無常〉共同研究とのコラボレーションとして開催される、説話文学会例会シンポジウム「五大災厄のシンデミック―『方丈記』の時代」(2022年9月17日、早稲田大学)の起点となった。研究会メンバー3名をパネリストとして、議論を学会と共有する。
『方丈記』は「フラジャイルな〈無常〉」の原点だ。「堂舎・塔廟(たふめう)ひとつとして全(また)からず。或いはくづれ、或いは倒(たふ)れぬ」と瞬時に都を壊滅させる地震をはじめ、鴨長明の前半生(1177~85)に起こった五大災害(大火、辻風、都遷り、飢饉・疫病、大地震)を描く。その背後には源平の争乱があり、本質的な意味で、シンデミック=禍の複合がテーマとなる歴史的作品だ。私がfragileと呼ぶ、日本的〈無常〉イメージに絶大な影響を与えた。個人的にも、かつての新聞連載を全面改稿して『方丈記』の本を書いており、この名作と向き合う日々が続く。