RESEARCH
〈戦後〉の再審のために
これまで日文研では、共同代表を含めて「戦後日本文化再考」「マス・メディアの中の芸術家像」「東アジア冷戦下の日本における社会運動と文化生産」「戦後日本の傷跡」という共同研究会を主宰者として運営してきた。
このうち「マス・メディアの中の芸術家像」を除いていずれも日本の〈戦後〉という時代の文化や運動に関する研究会である。もともと私の専門は日本近代文学で、その研究の出発点は近代詩の研究。そして最初の単著は萩原朔太郎を論じた本。萩原の活動時期の中心は大正期だったこともあり、大正期の文学に最も心ひかれるところがある。
だから最近も有島武郎研究会から依頼を受けてホイットマンやカーペンターの受容について講演をしたり論文を書いたりしている時は、やっぱりこの時代について考えるのは愉しいなあと思ったものだ。
しかし日文研に着任してからは意識的に〈戦後〉を研究のターゲットにすることに努めてきた。しかもそれを〈戦後文学〉という文学中心の分野に限定しないように、よく言えば包括的に、ともかくどんな領域のことでも相関させるような議論の場を作ろうとしてきた。大正期が(今ならそう呼ばずに〈戦間期〉と言うのだが)ある種疑似桃源郷的な実験空間を日本の文化に用意したのだとすれば、〈戦後〉の時間は私にとってもっと生身の痛みも快感も伴うような、なまなましい時間である。
あきらかに人生の最後のクオーターの時期に入った私自身の内部からの強い欲求がこの継続的なプロジェクトに向かわせたのだと思う。共同研究員のメンバーも一様に強いモチベーションをもって参加してくださった。おそらくそれは彼女ら/彼らも私と同様の、そしてそれぞれに異なる〈私自身の時間〉を自身の研究プロジェクトに重ね合わせてきたからだと思う。最後の「戦後日本の傷跡」もこの2月には国際研究集会を行って打ち上げ、同題の論文集が臨川書店から刊行される予定である。乞う御期待!