COMMUNICATIONS
東アジアの哲学を思索、創造する場―日文研
2019年8月から、日文研で共同研究会「東アジアにおける哲学の生成と展開―間文化の視点から」を主宰して以来、私自身の研究も徐々に日本の哲学から東アジアの哲学へと移行しています。東アジアにおける哲学の受容と展開の歴史を描きつつ、異文化間の哲学対話をいかに推進するか、東アジアの哲学をどのように形作ればよいのかということを思索する毎日を過ごしています。
その過程の中で、これまで断続的に構想してきた新たな著作の全体像を「台湾哲学と日本哲学とヨーロッパ哲学との連動――東アジア哲学の近代化の過程」というテーマに集約しました。単著自体は、台湾哲学の形成可能性に加え、日本哲学およびヨーロッパ哲学との関係を掘り下げて、三者の交流と対話を織り成すような内容です。
台湾の哲学者、思想家として取り上げるのは、洪耀勲、楊杏庭、曽景来、張深切といった顔ぶれで、小説家では張文環を登場させます。これらの哲学者、思想家、小説家を、日本近代の哲学者である西田幾多郎、田辺元、和辻哲郎、九鬼周造、務台理作、三木清、高坂正顕などと関連づけ、さらに研究の射程を、日本近代の中国学や宗教学ならびに宗教研究にまで広げます。取り上げる近代日本の哲学者、思想家、宗教家では他に、井上哲次郎、姉崎正治、村上専精、忽滑谷快天、蟹江義丸、武内義雄、白川静などがいます。ヨーロッパ哲学では、特に、観念論者の最高峰であるヘーゲルや、現象学者のフッサール、シェーラー、ハイデガーを取り上げます。
私自身の東アジア哲学への関心は、上述した三つの地域の連動に止まらず、さらに、植民地期のベトナムと朝鮮の思想状況や、1920年代後半以降中国における哲学の発展状況などにも及んでいます。これらの広範囲にわたる研究は、台湾や中国の蔵書や資料だけでは、到底完成できません。ひとえに日文研が提供してくださった自由な研究環境や豊かな図書資源のおかげです。この場を借りてあらためて日文研の教職員の皆様に深い感謝の意を表します。