JP EN

COMMUNICATIONS

エッセイ

反語表現の面白さ、そして人文学の危機

徐載坤(外国人研究員)
2025年9月9日

 いよいよ、夏本番!

 まだ6月なのに、今日は、37度まで気温が上がるそうです。私の故郷であるテグ(大邱)は、京都と同じく盆地であり、韓国で一番暑い地域として有名です。最近、<テプリカ(テグ+アフリカ)>という新しい造語まで生まれました。だから暑さには慣れているのでは、と言われるかもしれませんが、ソウルにある韓国外大に赴任し、今年で20年目になるので、去年は残暑が消えるまで、京都市内にはほとんど行きませんでした。

 外国人研究員として、1年間、日文研に滞在しながら、研究活動だけでなく、いろんな有意義な経験ができた。韓国でも、最近、研究の大衆化――大学の(地域)社会に向けた活動、協力、貢献――を重視するようになっている。今回の滞在では、日文研の隣にある大枝中学2年生の人権学習で短い時間ながら、お話しできたことが一番の思い出になりそうだ。それは、今までのアカデミックな場での発表や、文学愛好家向けの講演とはちがう経験だったからだけでなく、当日、生徒代表として挨拶をした生徒が、週2回、私が通っていた卓球クラブのユースクラスメンバーであったからである。彼の妹さんもメンバーであったが、彼女は桂坂小学生。休憩時間には、ユースクラスメンバーたちが集まってきて、「スさんは何しに日本に来たの?」「なぜ日本語がうまいの?」「日本を研究するって、アタマいいね?!」のような素朴な質問を浴びせる。その時間がとても楽しかったことはいうまでもない。

 今回の滞在中、明治初期の活字メディアの文章を主に読んでいた。そして、現代日本語ではあまり使われていない反語というレトリックの面白さに気づいた。そこで、日文研の教員・図書館員・職員の学術的、専門的、そして充実したサポートに対する感謝の気持ちを反語的レトリックで表現したくなった。
 「私、全然、お世話になってないでしょう?」(そんなはずがない!)

 最後に、日文研所内のある催しで、ある職員から出た「人文学の大事さと必要性をどうアピールすればいいですか?」という質問は、韓国でも人文学が危機に瀕しているので、ずしーんときた。
 離日目前、やっと、答えが見つかった。
 「兼六園の根上松を見なさい!」 
 あの巨大な松を支えているのは、地下深くまで伸びている強靭な根である。
 樹(植物)を立派に育てるためには、目先の葉っぱではなく地下の根を最優先することが不文律!

2025年6月30日
日文研北棟219号室で

日文研の研究室にて(友人が撮影)