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COMMUNICATIONS

着任のごあいさつ

不確実な時代に知を営むこと

周 雨霏(特任准教授)
2025年7月7日

 2024年10月、上廣国際日本学研究部門* の創設とともに当部門に着任し、現在は運営などを担当させていただいております。これまで関西と関東の複数の大学・研究機関に籍を置いてまいりましたが、大学院時代に暮らした京都に、約六年ぶりに戻ってくることとなりました。懐かしさと嬉しさが入り混じった、静かな高揚感を日々味わっております。

(日文研北側の静かな路地から見える、西山連峰の山なみ 本人撮影)

 私の研究関心は、戦前から戦時期にかけての日本における社会科学の思想にあります。一人の研究者として、また一人の学徒として、その時代に生きた人びとが学問を通して社会と向き合おうとした軌跡に深い関心を持っています。戦前・戦時期と聞くと、思想や言論が厳しく統制された時代という印象を抱くのではないでしょうか。たしかに、総力戦体制の下で、社会諸科学を含む多くの知が国家の要請に応じるかたちで動員されました。一方で、この時期には国勢調査をはじめとする統計データの整備が進み、実証的な社会調査の手法も飛躍的に発展を遂げました。社会科学の現場では、世界観や価値観、さらには方法論をめぐって研究者たちの間では鋭い議論が交わされていました。今日の流行り言葉を借りれば、まさに予測不可能な時代のなかで、知の営みは、国家や社会、自由と抑圧、価値中立と信念のあいだで揺れ動きながら、過酷な状況に鍛えられつつも、じつに多様なかたちで展開されていったのです。

 いま、戦後80年という現在地に立つ私たちは、比較的平和で豊かな環境のもとに生きてきたと言えるでしょう。けれども、グローバルな人・モノ・資本の大規模な移動、人工知能の急速な進展、そして環境をめぐる未曾有の変動などは、学問にも新たな問いを突きつけています。私たちは、こうした変化のただ中で、80年前の知の担い手たちと同じように、不確実な未来と向き合いながら、自らの立ち位置を問い続け、知の営みのあり方をあらためて考えていくことが求められているのかもしれません。この予測不可能な時代にあって、皆さまとともに考え、歩んでいけることを、私は心からありがたく、また心強く感じています。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。

上廣国際日本学研究部門の詳細は、以下のホームページをご参照ください。
https://ugjs.nichibun.ac.jp/