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COMMUNICATIONS

エッセイ

緑の記憶

朱莉麗(復旦大学文史研究院/日文研外国人研究員)
2023年9月15日

 一年前、私は黄色のヤサカバスで花の舞公園前に着き、緑いっぱいの小道を通って、日文研にたどり着きました。国際研究推進係の皆様のおかげで、三日後に着任の手続きを完了し、窓から美しい景色が見える研究室で、一年間の研究生活をスタートさせました。

 私が日文研で進めた研究テーマの一つは、「明日(みんにち)交流の中の江南地域――遣明使とその周辺」です。これは、院生の時から今まで二十年近く探索してきた日明交流史の一部です。具体的には、遣明使が記録した明政府とのやりとりの公文書を、『嘉靖公牍集』に収録されている明の公文書と比較し、海防事務と朝貢事務における明の軍・政・監察という三つのシステムの役割を解明しました。また、遣明使が入貢地の寧波及び運河に沿って北京に向かう途中に発生した経済活動の背後にある貿易ネットワークを分析し、日明間貿易の実態を検証しました。

 もう一つの研究テーマは、「東アジアにおける日本刀の流通」です。日文研図書館の資料を利用し、日本刀を切り口にして、15~18世紀の東アジアにおける複雑な交流の様相を探りました。また、通信使ゆかりの遺跡調査も行いました。いただいた研究費を使って、2022年10月に相島、上関、尾道などの港町に行き、週末を利用して、通信使が通過した中山道・美濃路と東海道の旧街道でも調査を行いました。通信使ゆかりの港と道路の現在の様子を視認し、史料の記載と比較してその変遷を追い、現地にある碑銘・鐘銘・扁額を確認した上で、調査レポートを作成しました。

 日文研で過ごした日々はとても充実していました。綺麗な図書館はいつでも研究者に開かれており、深夜まで図書館で資料を読んで過ごす日々は、まるで院生時代に戻ったかのようでした。疲れを感じた時は、天井の美しいステンドグラスを見上げて癒されました。研究の楽しみをひしひしと感じた一年間でした。また、私は自然が好きで「山居生活」に憧れていますが、私の暮らす大都会の上海ではなかなか実現できません。古い歴史を持つ京都の、日文研のような静かな場所で暮らし、研究をすることも、何よりの幸せでした。

 緑いっぱいの季節に日文研に来て、また緑いっぱいの季節に日文研を去ります。緑は日文研の色、この緑は私の心に深く刻み込まれています。日文研の外国人研究員としての経験は私にとって大事な経験となるでしょう。今後、この学びや経験を、中国と日本の学術交流に生かしていきたいと考えております。

図1 上関御茶屋正門石垣(著者撮影)

図1 上関御茶屋正門石垣(著者撮影)

図2 近江八幡の朝鮮人街道標識(著者撮影)

図2 近江八幡の朝鮮人街道標識(著者撮影)