COMMUNICATIONS
エッセイ
日文研での研究生活
財吉拉胡(内蒙古民族大学教授/日文研外国人研究員)
2021年8月16日
2021年1月に日文研に外国人研究員として着任してすでに7か月が経ちました。この間、何をしたかを振り返ると、コロナ禍の中で内モンゴルから香港経由で来日した長い旅のことや、私が日文研に無事に着任するために手続きを整えてくださり、温かく歓迎してくださったカウンターパートの先生と研究協力課の方々、日文研図書館所蔵の資料との出会いが、映画のように思い出されます。研究に最適な環境に恵まれ、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
私個人の研究は、人間の生老病死とかかわりのある医事衛生を人類学的かつ歴史学的に見ていくものです。それは東アジアから北東アジアまでの幅広い地域にまたがり、中国・モンゴルと日本の歴史・社会・文化に関係しています。日文研に着任してからは専ら、20世紀前半に内モンゴルで展開された近代日本の医療衛生事業に関心を寄せています。日文研の図書館には当時の資料がたくさん保存されており、閲覧するたびに歴史そのものに触れているように感じ、驚いたり、興奮したりしています。
戦前期の日本がモンゴル地域で展開した医療衛生事業にかかわった人々のほとんどは人類学者ではなかったものの、人類学者のように医事衛生に関する調査報告をたくさん書き残しました。私はそういった原典を読み解くことにより、近代的医療衛生が本土化へと至る歴史的変容を描く作業を試みています。まさに、日文研での研究生活は、歴史学と人類学が未来へ向かう二つの軌道となり、電車が通過するたびに対話をしているかのような感覚を味わっている毎日と言えるでしょう。