COMMUNICATIONS
漢字からくずし字へ―日文研での滞在研究について
私の日本文学及び文化の研究は、漢詩文からです。中国人の私は、漢文を見ると、親近感を持ちます。特に日本語を勉強し始めた頃には、仮名の間に漢字を差し込む日本語はそんなに難しくないと思い、勉強を続けてきました。
ところが、日本の漢詩文を研究するためには、さまざまな資料を参考にしなければならないのです。例えば、江戸時代の富士山漢詩を研究する場合は、『富士の人穴草子』を通読することが必要です。『富士の人穴草子』はくずし字で書かれた奈良絵本ですが、翻刻が既に公開されているので、くずし字を読めなくても構いません。
一方、私の日文研での研究テーマは、江戸時代における絵入り物語です。絵入り物語の関連資料は数え切れないほど多く、その中には、くずし字で書かれた、まだ翻刻されていないものも少なくないのです。どうすればよいか困った私は、荒木浩先生に教えを請いました。荒木先生のおかげで、大学院生の石原知明さんと虞雪健さんが講師役となり、くずし字読解勉強会が2020年1月から3月にかけて月二回開催されました。
私はだんだんくずし字を読むことができるようになりましたが、毎日の翻刻の練習は不可欠だと思い、週末や祝日でも長女を連れて、研究室で練習しています。長女が幼稚園の練習帳で平仮名を書いている間、私は変体仮名を繰り返し書くことにしています。疲れると、図書館前の廊下で、長女と一緒に外の緑を眺めたり、写真を撮ったりします。新型コロナ感染症拡大時期のなか、日文研で静かに勉強や研究を続けられることに、大変感謝しております。
6月29日から始まった荒木先生による中世文学講読では『徒然草慰草』を読んでいます。私は翻刻を参考にせず、大体読むことができるようになりました。くずし字を克服したことは、私の研究にとって非常に重要です。
ですから、日文研は資料の宝庫だけでなく、人材の宝庫とも言えると思います。優れた先生と院生がいらっしゃるからです。日文研での日々は、私にとってこれからもかけがえのない恵みであり続けることでしょう。
日文研公式Facebookでは、李先生の「研究紹介 拡大版」を掲載しています。こちらもぜひご覧ください。