COMMUNICATIONS
コロナ禍の移民都市ロンドン
―なぜ感染率や死亡率に格差があったのか
国際日本文化研究センターの外国人研究員として「「国際日本研究」が求める研究視界とハンドブックとは何か」というプロジェクト名で、英語による「国際日本学ハンドブック」の出版プロジェクトを進めてきた。全3回にわたる研究会には20名以上の参加者が、世界中で日本学を志す、または行う人たちが末永く読んでくださるような書籍の作成を目指して熱心に討論を重ねた。出版は3年後を予定している。同時に、私が研究を行ってきた「コロナがロンドン移民に及ぼした影響を文化翻訳」を英語書籍として来年度に刊行予定のため、本執筆も滞在中に行い、日本でも依頼を受けて研究報告を行った。
コロナ禍の2020年、私は United Kingdom Research and Innovation (UKRI, 英国研究・イノベーション機構) から約5,000万円の研究助成金を受け(助成金番号: AH/V013769/1)、移民都市であるイギリスのロンドンにおいて、コロナによる感染率や死亡率が顕著に高い移民コミュニティについて14名の研究者とともに調査を行った。実はロンドンの人口のおよそ50%が移民であり、常に300以上の言語が話されている。
Covid-19 の初期に死亡した者の多くは、実は、BAME(Black Asian Minority Ethnic) *1 と呼ばれる移民たちであったことが国の調査で明らかになった。さらに BAME の中でも言語コミュニティによって感染率や死亡率に明らかな違いがあり、突出して死亡率が一番高かったのはバングラディッシュ・コミュニティであった。コロナ・パンデミックは誰にも「等しく」襲いかかると考えられたが、イギリスのケースを見る限り、死亡率においては、かなりの格差があったのだ。私は、この格差の原因が、リチャード・ホートンのいうシンデミック *2 に加えて、異なるコミュニティのもつ言語的特性や実践する文化の異なり、そしてコロナをどのように翻訳したのかにもあると考え、14人の研究者とともに日本語コミュニティを含む、移民コミュニティからオンラインによるアンケート、そしてインタビュー調査を行った。インタビューの多くが移民の第一語で行われており、本研究には複数の「翻訳」が介在しているのも興味深い。
*1 BAME は、Black(黒人)、Asian(アジア系)、Minority Ethnic(エスニック・マイノリティ)の略語であり、White(白人)以外のエスニック・グループ(民族集団)を指す。イギリスでは報道や公的文書等で広く用いられてきた。
参考: Official website of Mayor of London
*2 リチャード・ホートンは COVID-19 が社会的・経済的に弱い立場にあったコミュニティに対してより悪影響をもたらしたことを強調し、COVID-19 をウイルスの感染という生物学的な「パンデミック」の側面からだけでなく、疾患の社会的背景との相互作用に着目する「シンデミック」の観点から理解したうえで、対応策を考えるべきだと主張している。
出典: Horton, Richard. Offline: COVID-19 is not a pandemic. The Lancet, Volume 396, Issue 10255, 874 (2020). https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)32000-6/fulltext?s=09