COMMUNICATIONS
連載記事
京都の端から、こんにちは 第48回
井上章一(所長)
2024年10月21日
私は老人です。「パンツ」という言葉を聞くと、まず下着のそれを想いうかべます。ですが、若い人はちがいます。彼らが最初に脳裏へえがくのは上着のズボンらしい。現代の日本には、「パンツ」をめぐるふたつのことなる語釈が同居しているのです。
下着のほうだけを「パンツ」というのは、イギリスの英語に由来します。イギリス人はズボンのことを、「パンツ」とはよびません。そちらは、「トラウザーズ」になります。
いっぽう、アメリカの英語で「パンツ」は上着のズボンだけをさします。下着のほうを、この言葉はさしません。アメリカ人が下着をしめす場合は、「ショーツ」などがつかわれます。
イギリスの英語とアメリカの英語は、「パンツ」の意味で、決定的にわかれます。日本のように、どちらの意味でももちいられるということは、ありません。
日本には、だからイギリス流とアメリカ流が共存していることとなります。あるいは、すみわけているのかな。そして、しだいにアメリカ流が浸透しだしているように、私などは感じます。こういう語彙の変化をたどるのも、ちょっとした国際日本文化研究になりそうですね。