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連載記事
京都の端から、こんにちは 第40回
井上章一(所長)
2024年2月29日
日本の建国伝説は、ヤマトタケルという皇子を登場させています。想像上の人物です。ですが、日本では、ながらく彼のことが英雄として語られてきました。
そんなヤマトタケルに、女装の逸話があります。敵をほろぼすため、女になりすます話です。相手の族長を、その美しさでうっとりさせ、油断につけこみ刺殺する。以上のような物語が、おそくとも8世紀のはじめには成立しました。そして、今日なお、しばしばふりかえられています。あいかわらず、民族の英雄として。
十数年ほど前に、中国の留学生から、口をそろえて言われました。女のふりをして敵を籠絡し殺害するのは、ひきょうだ。いやらしい。そんなのは、英雄のすることじゃない、と。彼らの指摘は、皇子の伝説に魅了されてきた私を、おどろかせました。
どうやら、中国と日本のあいだには、この点についての溝があるようです。そこにさぐりをいれたらおもしろいと、私は思いました。そして、いよいよ著作として世に問います。題して、『ヤマトタケルの日本史』。お見知りおきのほどを、よろしくおねがいいたします。