COMMUNICATIONS
「思いがけないつながり」を可視化する研究者を目指して
この夏に特任助教(人文知コミュニケーター)として着任いたしました。研究対象は桐野夏生の文学作品です。1993年にミステリー作家としてデビューした彼女の作品は、2000年代にかけて特定のジャンルに捉われないものに変化していきました。日本の1990年代、2000年代とは「格差社会」の幕開けとなった時代でもあります。私は桐野作品における犯罪や女性、労働の描写の変化と、日本社会の構造変化の連動に興味を持って研究を続けています。
桐野作品を研究対象に選んだのは大学院生の頃です。語学が心底苦手な私は、当時、日本語で日本国内にだけ目を向けて研究を進めようとしていました。しかし、桐野研究を進めるうちに彼女の作品に興味のある外国人研究者が沢山いることが分かり、慌てて英語レッスンなどに通い始めることになりました。そのレッスンで複数のクラスメイトに同じ質問をされました。「日本文学の研究をしている人が、なんで英語のレッスンに来ているの?」。そのたび、私は「日本文学の研究こそが私をここに連れてきた」と下手糞な英語で説明することになりました。
「社会と研究の現場をつなげる」研究者である人文知コミュニケーター*として、国際日本文化研究センターに着任した今、当時のやり取りをよく思い出します。「日本文学の研究をしているのになんでここにいるの?」から「日本文学研究をしているからここにきた」へ。「なのに」を「だから」に変えながら、「一見、関係なさそう」な世界と日本文化研究の繋がりを可視化し、拡げていくのが私の仕事だと思うからです。しかし、その「だから」は専門性に裏打ちされているからこそ説得力を持つのだとも思います。研究者としてはまだまだ未熟ですので、自分の研究を一歩ずつ進めながら、より多くの人が「日文研」にアクセスしやすくなるような仕事をしていく所存です。よろしくお願いいたします。
*「人文知コミュニケーター」についてはこちら
https://www.nihu.jp/ja/training/jinbunchi/about