COMMUNICATIONS
連載記事
京都の端から、こんにちは 第29回
井上章一(所長)
2023年2月27日
昨年2022年の10月に、「耳で感じるジャポニスム」という催しをおこないました。19世紀のヨーロッパでは、日本をテーマとした音楽が、けっこう作られます。多くは歌曲、ピアノ曲、まあ室内楽ですね。国際日本文化研究センターは、それらの楽譜をあつめてきました。その一部を、京都市立芸術大学の音大生たちに実演してもらったのです。
会場は京都堀川音楽高校のホールでした。ステージには、スタインウェイのピアノがおいてあります。41歳からピアノの練習をはじめた私には、あこがれのピアノです。演奏会の終了後、おずおずとそちらへ目をむけました。その姿を見ての、忖度だったのでしょう。企画の肝入り役だった光平有希さんが、私をはげましてくれました。ひいてみませんか、と。
彼女のあとおしに勇気づけられ、私はピアノの前にすわりました。客席が空になったホールで、ひとときスタインウェイとたわむれたのです。演奏をおえた私は、楽屋からステージへもどってきた音大生たちに、拍手をされました。うれしかった。ここ数年で、いちばんときめいた瞬間だったかもしれません。
どうやら、光平さんだけでなく、音大生にも気をつかわせたようです。京都市立芸大のみなさん、ありがとう。そして、もうしわけありませんでした。