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COMMUNICATIONS

エッセイ

日文研における夢のような日々

許佩賢(台湾師範大学台湾史研究所教授/日文研外国人研究員)
2023年2月15日

 ある夏の日の午後だった。美しい陽射しが、日文研の図書館の天井から屋内に向けて七色に輝いていた。その何とも神秘的な様子は、明るい期待を胸いっぱいに抱く私の気持ちそのものだった。

許先生・図書館写真

まるい天井から七色に輝いていた日文研の図書館(筆者撮影)

 契約式の席上、国際研究推進部長であるタイモン・スクリーチ教授のおっしゃった一言が忘れられない。「外国人研究員の皆さんがここでなすべきは、たった一つ、心ゆくまでご自身の研究を進めることです」。胸を打たれた。普段、台湾の大学では授業、事務、学生指導に大半の時間を取られてしまい、心ゆくまで研究なんて無理な話だ。ここへ来てからというもの、素晴らしい環境、制度、人に囲まれて、研究に没頭している。まったくもって、幸せすぎて夢のようだ。

 日文研へ来てからは「戦時期植民地台湾における学校生活の日常:『学校日誌』を中心に」というテーマで研究を進めている。学校日誌は、近代の学校になくてはならない帳簿の一つである。日誌に記された日々の記録からは、戦時下の学校で児童たちが動員される状況が読み取れる。とりわけ目を引いたのは、戦争末期、アカギの葉を採取するため大量の児童が動員されていたことである。背景には、植民地科学の発展が関係している。学校日誌に象徴される「学校管理の知」とアカギの葉の利用に象徴される「植民地科学の知」が組み合わさり、学校が戦争動員のための効力を持った装置だったことがはっきりと見て取れる。

 こうした気づきを得られたのも、カウンターパートの松田利彦教授のおかげだ。共同研究会への参加をお認めいただき発表させていただいたうえ、常に温かくさまざまなご支援とお力添えを賜った。心より感謝申し上げたい。今後、日文研での学びや経験を、台湾と日本の学術交流に生かしていきたいと考えている。

 来日の準備を始めた2021年末は、折しも日本の水際対策が徐々に変わる時期にあたっていた。そのため、佐々木彩子係長をはじめとした国際研究推進係のスタッフの方々は、我々外国人研究員が滞りなく入国できるよう、心を砕いてくださった。その後も、家探しや各種手続きで、多大なるご面倒をおかけし、到着してからもまた、何かとお世話になっている。それに、日文研の警備員、図書館、コモンルームや事務職員の方々は誰もが、非常に親切で、ありがたい限りだ。

 幸せな時間というのは、過ぎるのも早い。日文研での10カ月は、そろそろ終わりに近づいている。残るは、研究会での報告とフォーラムでの講演だ。気がかりなのは、図書館E2の棚にある漫画やおもしろそうな本たちを、到底読み終わりそうにないこと。それに、センターの裏山への探検もこれから。まだ日文研にいるというのに、早くも恋しさが募り始めている。