COMMUNICATIONS
近世東アジアの詩文を通してみる異文化理解と抵抗
私が日文研に着任したのは2021年7月1日、つまりコロナ禍の第4波と第5波の狭間でした。日本国籍を持たない私は、井上所長及び海外研究交流室のスタッフのご尽力で水際対策のハードルを飛び越し、予定よりやや遅れて入国し、2021年度の数少ない外国人研究者の一員になることができました。それ以来、劉建輝教授をはじめとする所内の方々にいろいろな示唆を承り、学術的雰囲気の豊かさや人々の鋭さを実感しながら、幸せな日々を送ってきました。コロナ禍の第5、第6波にあたる滞在期間にはオンラインでの研究会で発表や討論が活発に行われ、自身の研究に資するアイデアを多く与えていただきました。すでにパンデミック3年目に入り、いわゆる「ズーム疲れ」を感じる場面は誰しもあるものの、先端技術のおかげで学術交流がこういう形で続けられ、学問を続けていけるのは幸運と言わざるを得ないでしょう。
研究の方では、江戸時代の日本及び同時代の清朝・朝鮮のそれぞれの文献をまとめて近世東アジアにおけるプロトエスノグラフィーと考えられる詩文やそこに反映された知識を取り上げる単著を執筆中です。そのために日文研では主に江戸中期以降の漢詩、狂歌、川柳などの詩歌に的を絞り、図書館の書物を参考にしながら、中国と朝鮮の文献との比較を行っています。叙情文学ジャンルを使って他文化、他民族あるいは自らのサブカルチャーなどを系統的に描写しようとした表現方式と近代社会学の立場との相違点を考えながら、国境を越えた東アジア地域全体としての異文化理解や抵抗を解き明かそうとしています。このようなアプローチを通じて、人文学や社会科学の未来図に貢献できればと願っています。日文研で文学を玩味しながら国際社会で問われている課題を思案できるという機会に恵まれ、感謝の気持ちでいっぱいです。