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連載記事
京都の端から、こんにちは 第16回
井上章一(所長)
2022年1月31日
京都は歴史都市を標榜しています。しかし、伝統的な街並は、もうあまりのこっていません。たいていの街区は、新しいビルや今日的な商品化住宅に席巻されています。
それをざんねんがる人たちに、私はよく花街見学をすすめてきました。芸舞妓たちのつどうエリアです。祇園や上七軒かいわいですね。あのあたりへいけば、古くからつづく瀟洒な街並が、まだのこっています。
それだけではありません。芸舞妓は和服で往来を歩きます。三味線をひき、日本舞踊をおどってきました。舞妓は自分の毛を日本髪にゆいます。こんなくらしが生きているところは、もう花街しかありません。
本気で日本文化を研究するのなら、私たちも祇園などへかようべきでしょう。芸舞妓たちへの密着取材も、かかせないと思います。しかし、彼女たちへの花代を公費から捻出するのは不可能です。また、昨今の世論は、研究者の花街出没をとがめそうな気もします。
日本文化研究の本格的な実践を、私はあきらめています。